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売上は伸びている。広告も回っている。商品も動いている。それなのに、なぜか不安が消えない。
D2CメーカーとしてShopifyで自社ECを運営していると、こうした感覚に陥ることがあります。数字上は成長しているように見えるのに、「このやり方で本当に大丈夫なのか」という疑問が拭えない。広告を止めたら売上が落ちる気がする。新商品を出しても反応が読めない。リピーターは増えているはずなのに、次の一手が見えてこない。
この違和感の正体は何でしょうか。
多くの経営者は「集客が足りないのではないか」「施策が弱いのではないか」と考えます。しかし実際には、問題の本質は実行レベルにあるのではなく、何を見て、何を判断するかという設計そのものにあることが多いのです。
Shopifyは自由度が高く、豊富なデータが取れるプラットフォームです。だからこそ、見るべき数字を間違えると、誤った判断を高速で積み重ねてしまう。売上が伸びているように見えても、実は構造的に脆い状態だった。そんなケースは決して珍しくありません。
「この成長は再現可能なのか?」
この問いに自信を持って答えられないとき、それは判断の軸が曖昧になっているサインかもしれません。この記事では、D2CメーカーがShopifyで陥りやすい判断のズレと、それを防ぐための思考の整理方法を解説します。ノウハウではなく、判断の設計について考えていきましょう。
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Shopify×D2Cが難しい3つの理由
D2CとShopifyの組み合わせは、理想的に思えます。自由にブランドを表現でき、顧客と直接つながり、データも取れる。しかし、この環境だからこそ生まれる構造的な落とし穴があります。
顧客と近すぎることが、判断を狂わせる
D2Cの最大の強みは、顧客と直接コミュニケーションが取れることです。SNSでのリアクション、商品レビュー、問い合わせ内容。こうした生の声は、ブランドにとって貴重な情報源であり、改善のヒントになります。
しかし、この「近さ」が判断を歪めることがあります。
例えば、SNSで強く反応してくれる顧客がいたとします。その人の意見は印象に残りやすく、つい「この声に応えよう」と判断してしまう。レビューで「もっとこうしてほしい」と書かれると、すぐに対応したくなる。問い合わせで同じ要望が数件続くと、「これは多くの人が求めていることだ」と感じてしまう。
けれども、声を上げる顧客は、必ずしも全体を代表しているわけではありません。むしろ、声の大きい一部の顧客に引っ張られ、本来見るべき全体像を見失うリスクがあります。サイレントマジョリティは数字の中にしか現れません。
定量データがなければ、経営は感情に左右されます。「こう言われたから」「こう感じたから」という判断の積み重ねは、結果として再現性のない施策を生み出します。個別の声に耳を傾けることは大切ですが、それを判断の中心に置くと、ブランドの方向性がブレてしまいます。
顧客との距離が近いからこそ、あえて数字で全体を捉える習慣が必要になるのです。
「売れ筋商品=主力商品」という誤解
売上ランキングを見て、上位の商品を「主力商品」だと判断していませんか。
これは、D2Cにおいて最も危険な誤解のひとつです。
売上が高い商品が、必ずしもブランドの成長を支えているとは限りません。なぜなら、売上という数字は「結果」であり、その商品が利益を生んでいるか、リピート購入につながっているか、初回購入のきっかけになっているかといった構造的な役割を教えてくれないからです。
例えば、ある商品が月間売上トップだったとします。しかし、その商品は広告費を大量に投下しており、利益率が低い。リピート購入率も低く、一度買ったきりの顧客が多い。このような商品を「主力」と位置づけ、さらに広告を増やせば、売上は伸びるかもしれませんが、利益は増えません。経営は楽になりません。
一方で、売上ランキングでは中位にいる商品が、実は初回購入のきっかけになっており、その後のリピート購入や別商品への移行率が高い、ということもあります。顧客生涯価値(LTV)で見たとき、この商品こそが真の主力です。
初回購入商品は、ブランドとの最初の接点です。ここで適切な商品を提供できなければ、どれだけ広告を回しても、リピーターは育ちません。売上という表面的な数字だけを見て判断すると、売れているだけの商品に依存する構造ができあがります。それは、短期的には安定しているように見えても、長期的には極めて脆い状態です。
広告が止まった瞬間に崩れる構造
Shopifyで自社ECを運営する場合、集客の多くを広告に頼ることになります。SEOやSNS、コンテンツマーケティングも重要ですが、立ち上げ初期や拡大フェーズでは、広告が売上の大部分を支えているケースがほとんどです。
これ自体は悪いことではありません。問題は、広告費を止められない構造になっていることに気づかないまま運営を続けることです。
ROASだけを見て判断していると、この構造は見えてきません。ROAS 300%、つまり100万円の広告費で300万円の売上が立っていれば、一見すると健全に見えます。しかし、その300万円の売上のうち、どれだけが利益として残るのか。リピート購入はどれくらい発生しているのか。広告を止めたときに、どれだけの売上が維持されるのか。
こうした視点がないまま、ROASだけを追いかけていると、広告費が売上の前提条件になります。結果として、広告を止めることができず、利益率も改善しない。売上は伸びているのに、経営は楽にならない。むしろ、広告費の負担が重くなり、資金繰りに不安を感じるようになる。
この状態は、止められない広告費が経営リスクになっている状態です。
Shopify自社ECは、モールと違い、集客を自ら設計しなければなりません。その分、広告依存になりやすい構造を持っています。だからこそ、広告を「売上を作る手段」としてだけ見るのではなく、「リピーターを生み出す初回接点」として設計する視点が必要になります。
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D2Cメーカーのための「4つの方程式」
売上を構造的に理解するために、まずは基本的な方程式を押さえておきましょう。
売上 = 品揃え × 集客 × 転換率 × 単価
この方程式自体はシンプルですが、D2Cメーカーにとって重要なのは、どの変数をどう動かすかという判断です。
集客を増やせば売上は伸びます。しかし、それは本当に成長でしょうか。品揃えを増やせば選択肢が広がりますが、運営負荷も増えます。単価を上げたいと思っても、値段を上げるだけでは顧客は離れます。転換率を上げるために施策を打っても、根本的な商品力や導線設計が弱ければ効果は限定的です。
ここで考えるべきは、何を優先し、何を捨てるかです。すべてを同時に改善することはできません。限られたリソースの中で、どこに集中するかを決める。その判断の積み重ねが、ブランドの成長を左右します。
最優先は「売る商品」ではなく「育てる商品」
D2Cにおける商品戦略の本質は、「売れる商品を増やすこと」ではありません。むしろ、ブランドを育てる商品を明確にすることです。
売上が伸びているときほど、つい商品ラインナップを増やしたくなります。新しいSKUを追加し、バリエーションを増やし、顧客の選択肢を広げる。一見すると、これは成長のように見えます。
しかし、SKUを増やすことには弊害もあります。
在庫管理が複雑になり、広告の最適化が難しくなり、顧客の判断コストも上がります。何より、ブランドの輪郭がぼやけるリスクがあります。「このブランドは何を大切にしているのか」「何が強みなのか」が見えにくくなり、結果として記憶に残らないブランドになってしまう。
本来、D2Cブランドが持つべきは、明確な主力商品です。「このブランドといえばこの商品」という軸があるからこそ、顧客はブランドを記憶し、リピートします。友人に勧めるときも、「あのブランドのあれ、いいよ」と具体的に語れる。
主力商品を決めることは、同時に「これ以外は優先しない」という判断でもあります。この捨てる判断ができるかどうかが、ブランドの成長を左右します。
すべての商品を均等に扱うのではなく、育てる商品を決め、そこにリソースを集中する。これが、D2Cにおける商品戦略の基本です。
単価は”値段”ではなく”設計”で上げる
売上を伸ばすために、単価を上げたいと考えるのは自然なことです。しかし、多くの事業者が陥るのは、「単価を上げる=値上げ」という発想です。
値上げは、短期的には効果があるかもしれません。しかし、顧客が納得していない値上げは、離脱を生みます。値上げの理由が伝わらなければ、「高くなったから買わない」という判断をされるだけです。ブランドへの信頼も損なわれます。
一方で、値引きによる単価の引き下げも危険です。
セールやクーポンは短期的に売上を押し上げますが、長期的にはブランド価値を毀損します。「安くなるまで待つ」顧客を増やし、定価で買う文化を失わせるからです。一度値引きに慣れた顧客は、定価に戻すと離れていきます。結果として、値引きをやめられなくなり、利益率は下がり続けます。
では、どうすればいいのか。
答えは、単価を”設計”で上げることです。
例えば、単品ではなくセット商品を提案する。「AとBを一緒に使うと、こんな体験ができる」というストーリーを伝え、セットとしての価値を感じてもらう。定期購入の仕組みを整え、継続的に使ってもらうことで、LTVを高める。商品そのものではなく、使い方や背景にあるストーリー、ブランドの世界観を含めた価値を設計する。
こうしたアプローチは、値段を上げるのではなく、顧客が支払う金額の構造を変えることです。価格を下げずに売る方法を考えることが、D2Cにおける持続的な成長につながります。
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Shopifyデータを「判断」に変える方法
Shopifyは豊富なデータを提供してくれます。しかし、データが多いからといって、すべてを見る必要はありません。むしろ、見るべき指標を絞り込むことが重要です。
顧客基盤の状態を把握する方法|Shopifyで行うRFM分析
必ず見るべきShopify指標
以下の4つの指標は、D2Cメーカーが定期的に確認すべき数字です。ただし、数字そのものに意味があるのではなく、その数字が示す構造を理解することが大切です。
初回購入商品
顧客が最初に買う商品は、ブランドとの接点です。この商品が適切でなければ、リピート購入は生まれません。
初回購入商品を見ることで、「どの商品がブランドの入り口になっているか」が分かります。もし、意図していない商品が初回購入の大部分を占めているなら、それは設計のズレを示しています。広告で訴求している商品と、実際に初回購入される商品が異なる場合、顧客の期待とブランドの提供価値にギャップがある可能性があります。
この指標を見る理由は、ブランド体験の入り口を正しく設計するためです。
商品別LTV
売上ランキングではなく、商品ごとの顧客生涯価値(LTV)を見ることで、本当に利益を生んでいる商品が分かります。
初回購入では売上が低くても、その後のリピート購入や関連商品の購入につながる商品は、LTVが高くなります。この視点で商品を評価することで、表面的な売上に惑わされない判断ができます。
商品別LTVを見る理由は、どの商品がブランドの資産になっているかを知るためです。
リピート率
リピート率は、ブランドの健全性を測る指標です。新規顧客ばかりが増えて、リピーターが増えていないなら、それは広告依存の構造を示しています。
リピート率を商品別、顧客セグメント別に見ることで、どの商品がブランドロイヤルティを生んでいるかが分かります。また、リピート率が低い場合、商品力そのものに問題があるのか、購入後のコミュニケーション設計に問題があるのかを切り分けて考える必要があります。
この指標を見る理由は、ブランドが顧客に選ばれ続けているかを確認するためです。
2回目購入までの期間
初回購入から2回目購入までの期間は、ブランドとの関係構築のタイミングを示します。
この期間が長すぎる場合、顧客がブランドを忘れている可能性があります。逆に短すぎる場合、商品の消費サイクルが速く、リピート購入が自然に発生している可能性があります。この期間を把握することで、適切なタイミングでのコミュニケーション設計ができます。
例えば、2回目購入までの平均期間が45日なら、購入後30日前後でリマインドやレコメンドを送ることで、リピート率を高められるかもしれません。
この指標を見る理由は、顧客との関係をどのタイミングで深めるべきかを知るためです。
これらの指標は、単なる数字ではなく、判断の材料です。数字が何を意味しているのかを考え、そこから次のアクションを決める。その繰り返しが、ブランドを育てていきます。
見てはいけない指標
逆に、以下の指標は「結果であって原因ではない」ため、判断の軸にすべきではありません。
総売上
総売上は、事業の規模を示しますが、判断の材料にはなりません。売上が伸びていても、利益が出ていなければ意味がありません。売上だけを追いかけると、構造的な問題を見逃します。
売上が前月比で伸びているとき、それが広告費の増加によるものなのか、リピーターの増加によるものなのかを分解しなければ、次の判断はできません。売上という結果だけを見ても、何をすべきかは見えてこないのです。
セッション数
セッション数が増えても、それが購入につながらなければ意味がありません。セッション数は、集客施策の結果を示しますが、それ自体が事業の健全性を保証するわけではありません。
むしろ、セッション数が増えているのに売上が伸びていない場合、転換率に問題がある可能性があります。この場合、さらに集客を増やすのではなく、サイトの導線や商品ページの訴求を見直す必要があります。
広告ROAS
ROASは、広告の効率を示す指標ですが、それだけを見て判断すると、広告依存の構造を見逃します。ROASが高くても、リピート率が低ければ、広告を止めた瞬間に売上は崩れます。
ROASは「今月の広告が今月の売上をどれだけ作ったか」を示すだけで、「その顧客が将来どれだけ利益を生むか」は教えてくれません。短期的な効率だけを追いかけると、長期的な構造が見えなくなります。
これらの指標を完全に無視する必要はありませんが、これを判断の中心に置いてはいけないということです。結果を見るのではなく、構造を見る。そのための指標を選ぶことが、正しい判断につながります。
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Shopifyを意思決定のための基準として活用する
Shopifyは、ECサイトを運営するためのツールではありません。正確には、意思決定のための基盤です。
数字が見える。顧客が分かる。商品ごとの結果が出る。この環境があるからこそ、D2Cメーカーは「何を売るべきか」「何を捨てるべきか」を判断できます。
しかし、見るべき数字を間違えると、判断も間違えます。売上だけを追いかけ、ROASだけを見て、顧客の声だけに反応していると、構造的な問題は見えてきません。表面的な数字に引っ張られ、本質的な課題から目を背けてしまう。
成功しているD2Cメーカーに共通するのは、捨てる判断ができていることです。
売れる商品を全部扱うのではなく、ブランドを育てる商品に集中する。すべての顧客に応えるのではなく、本当に大切にすべき顧客を見極める。広告を回し続けるのではなく、リピート購入の仕組みを作る。売上が伸びている施策でも、構造的に脆いと判断すれば、やめる勇気を持つ。
こうした判断は、感覚ではできません。データに基づき、構造を理解し、優先順位をつける必要があります。
分析を外部に依頼することは問題ありません。しかし、判断は内製すべきです。なぜなら、判断はブランドの方向性そのものだからです。何を大切にし、何を捨てるか。その積み重ねが、ブランドの個性を作り、顧客との関係を深めていきます。
もし今、「このやり方で合っているのか」と感じているなら、それは立ち止まるべきタイミングかもしれません。施策を増やす前に、判断の軸を整理する。何を見て、何を決めるのかを明確にする。その一歩が、ブランドの次のステージを開くきっかけになるはずです。
よくあるご質問
まずは「初回購入商品」「商品別LTV」「リピート率」「2回目購入までの期間」の4つを軸にしてください。
売上の増減よりも、“どの商品がブランドの入口になっていて、どの商品が利益とリピートを生んでいるか”が見えるようになります。
特に初回購入商品が想定とズレていると、広告訴求と顧客期待が噛み合っていない可能性があるので、早めに手当てできます。
その3つは「結果」であって「原因」ではない、という点が落とし穴です。
売上が伸びていても、それが広告費増なのかリピート増なのかを分解できないと、次の意思決定ができません。
ROASも同じで、高く見えてもリピート率が低いままだと、広告を止めた瞬間に崩れる構造になりやすいです。
だからこそ、判断の中心は“構造が見える指標(LTV、リピート率、初回購入、2回目までの期間)”に置くのが安全です。
単価は「値段」ではなく「設計」で上げる発想に切り替えるのがいいかと思います。
たとえばセット提案で体験価値を作る、定期購入で継続前提の導線にする、使い方や背景ストーリーまで含めて価値を伝える。
こうすると、単純な値上げで離脱を増やしたり、値引きでブランド価値を毀損したりせずに、支払金額の構造そのものを変えられます。







